前回、ドイツ映画の歴史を簡単に振り返ってみましたが、『ニュー・ジャーマン・シネマ』のムーブメント以降、1980年に入ってからは、その勢いは弱まり、ドイツ映画は低迷の時期に入ったと言われていました。
それでも、80年代には、世界的に話題になり、日本でも多くの観客を動員した名作がいくつかあるのでご紹介しておきましょう。
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いずれも、記憶に残る作品で私もDVDで何度も観ていますが、“ザ・ドイツ映画!”というより、アメリカ映画色が強い印象ですね。
そんな低迷期が続いた中、90年後半に新しいドイツの若いパワーを見せつけるような作品が登場しました。
トム・ティクヴァ監督の『ラン・ローラ・ラン』(1998年)です。恋人を救うために、10万マルクを届けなければならないローラに残された時間は20分。フランカ・ポテンテ演じるローラが、真っ赤に染めた髪を振り乱し、テクノポップの音楽に乗せてベルリン中を駆け抜ける。うまくいかなかったら、また最初から始まるストーリーが3パターン。RPGのような構成と、時折アニメを挟んだ破天荒な展開は、パワフルで時にコミカルで、時間に追われる時代そのものも感じさせてくれた、私の大好きな作品です。
この映画の前年1997年に公開された『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』も、病院で出会った、お互いに余命わずかな男2人が、「海を見たことがないと天国で笑いものになる」という理由で、病院を抜け出し、事件に巻き込まれながら海を目指すという、コミカルでちょっと悲しい素敵な作品でした。空も、やっとたどり着いた海もモノクロのような暗い映像で、それが男2人によく似合っているあたり、これぞドイツ映画!という感じでした。
『ラン・ローラ・ラン』で息を吹き返したドイツ映画は、その後も『グッバイ・レーニン』『善き人のためのソナタ』『ソウル・キッチン』などの、ドイツの様々な側面を描いた個性的で素晴らしい作品で、世界中から高く評価され始めます。
ところで、この『ソウル・キッチン』で、仮出所してきたどうしようもない兄を演じているのが、モーリッツ・ブライブトロイ。この俳優は、あの『ラン・ローラ・ラン』で、ローラの、これまたどうしようもない恋人を演じているのです。70年代に活躍したクルト・ユンゲルスやハーディ・クリューガーのような、ドイツ将校役がピタリとはまる正統派俳優とはまた違った、21世紀のドイツ映画界には、なくてはならない存在だと思います。
ドイツの女優は、往年のマレーネ・デートリッヒやロミー・シュナーダー以降、大女優というタイプは出て来ていませんが、ナスターシャ・キンスキーなどは、日本でもラックスのCMで知られていますね。
女優と言えば、今年の4月に公開になった『バチカンで逢いましょう』。夫に先立たれたお婆ちゃんが、法王に懺悔するためにバチカンに行き、ひょんなことから潰れそうなレストランを立て直すというハートウォーミングな物語の主役、マルガレーテを演じているのは、あの『バグダッド・カフェ』でジャスミンを演じた、マリアンネ・ゼーゲブレヒト(69歳)です。相変わらずふくよかで、可愛くて、この作品の心地よさは彼女の魅力なくして語れません。
2回に渡ってドイツ映画を紹介してきましたが、これはほんの一部。他にも素敵な作品がたくさんありますので、ぜひお気に入りの1本を探してみてください。
写真提供:OFFICE SHIBA Inc.
早稲田大学法学部卒。ライター、コラムニストとして小学館発行の女性誌『CanCam』『Oggi』などで創刊当初より多くの連載を持つ。2008年よりインターネット上でのコラムニスト、ライフスタイルアドバイザーとして活躍。ライブドアニュース『独女通信』などの辛口コメントで人気となる。著書に『言葉の毒』(アマゾン、紀伊国屋、SONYストア他より電子出版)があり、現在第2冊目を著作中。2013年春より「リーン・ロゼ」ブランド・アンバサダーとして活動。人気ブログ『みやこのこのみ』を公開中。2013 年8月『ことばの毒』を出版。アマゾン、その他の書店で発売中。