寒い冬を吹き飛ばせ! ファッシングで大騒ぎ その2
真冬に行われる盛大なドイツのカーニバル『ファッシング』。
前回は、ファッシングが最も盛んなラインラント地方の様子を中心にご紹介しましたが、各地方によって、仮装のスタイルや盛り上がりが違います。日本各地のお祭りのように、伝統に基づいて地方色が豊かなのも、ドイツのファッシングの特徴と言えるでしょう。
例えば、ドイツ南西部のシュヴァーベン・アレマン地方。
ここのファッシング・パレードは、数千人が恐ろしげな悪魔や魔女、そして道化の仮面をかぶり、鈴や太鼓を激しく叩いて、夜まで街を練り歩きます。
インテリ市民層が中心のラインラント地方のファッシングと一線を画すため、1924年に「シュヴァーベン・アレマン道化組合」が設立されて、古くからこの地方に伝えられて来た伝統的なお祭りの様式が大切に引き継がれているのです。
登場人物は悪魔と道化、1933年にはそれに魔女が加わりました。特徴的なのは木製の「シェメン」(仮面)をかぶることです。このシェメンは、布、紙、針金製のものもあります。
仮面や衣装は歴史に根ざした条件に合っていなくてはならないという厳しい決まりがあり、道化組合で管理されて何世代にも渡って受け継がれていきます。また、これを付けてパレードに参加できるのは、最低15年在住の市民に限られます。
ケルンやマインツの、誰でも好きな格好で自由に参加できるファッシングとはかなり違いますね。地方特有の文化を守ろうという意識が強いのでしょう。
南チューリンゲンのヴェラ湖畔にあるヴァーズンゲンでカーニバルが発祥したのは1524年と言われています。ファッシングの期間には二人の侍従を従えた王子が登場し、その王子がファッシング期間中統治します。ハイライトのパレードは華麗な時代行列。この地域の人々はこの地独特のカーニバルを数百年に渡り守り続けているのです。
ドイツ東部のソルビア地方に住むソルブ人には、冬を追い出すために仮装して騒々しい音をたてながら村を練り歩く風習があります。村はずれまで行進しながら、農家1軒1軒の前で止まり、ベーコンや卵、お金などを恵んでもらい、そのお礼として農家の主人に焼酎をご馳走し、おかみさんとはダンスを踊ります。娘達は民族衣装を着て踊ります。
この風習は「ツァルムペン」と呼ばれ、ここで集めたベーコンと卵は、ファッシングの終わりにスクランブルエッグにして、みんなにふるまわれるそうです。
農家を1軒1軒回るあたりは、何だか秋田のなまはげに似ていますね。邪気を払うために太鼓などを叩いたり、家々を回ったり踊ったり……そういう風習は万国共通なのかもしれません。
南ドイツのミュンヘンでは、どこよりも早く年明けからファッシングが始まります。『ファッシングツーク』と呼ばれるパレードでは、グループごとに仮装のテーマがあり、そのアイデアも見もの。歌やダンスも交えながら、にぎやかにパレードしていきます。
ミュンヘン市庁舎のあるマリア広場には、『魚の泉』と呼ばれる泉があり、ファッシングの期間は、たくさんの若者達がこの泉に飛び込むそうです。お祭りで飲んだくれて噴水に飛び込む……これも、どこの国でも見かける風景ですね。
ファッシングでは、昼間からみんなオリジナルのラガービールや『プロセッコ』というスパークリングワインをボトルからラッパ飲みして騒ぎますが、ここで欠かせない食べ物が『クラプフェン』です。
ラインラント地歩では『ベルリーナー』と呼ばれています。
クラプフェンはドーナツのような生地の中にジャムが入った揚げパンのようなもの。上に白いお砂糖がかかっているのが基本形です。ファッシングの時期には、どこのパン屋さんの店先にも並びます。
ジャムは、アプリコットやベリー系が主流。最近ではジャムだけでなく、クリームが入ったものや、チョコクリームの入ったチョコレートクラプフェンなどもあり、トッピングやデコレーションがカラフルな、様々なものがあります。
日本人の口にも合うので、ファッシングの時期に行く機会があったらぜひ食べてみてください。
ただしお遊びで、中にマスタードが入った「ハズレ」もあるそうなので、見知らぬドイツ人が笑顔で「お一ついかが?」なんて差し出してきたら、注意した方がいいでしょう。
レポート・文 前川 みやこ(コラムニスト・ライフスタイルアドバイザー) 写真提供:OFFICE SHIBA Inc. Winbull Co.,Ltd.